今回は春小麦と冬小麦の話の話です
温暖化による農作物への影響
このコラムを執筆中の2020年4月現在、世の中は新型コロナウイルスで大変な状況です。その騒ぎにかき消されていますが、この冬は全国的に記録的な暖冬でした。コロナウイルスの経済への影響も甚大ですが、私は暖冬の影響も今後農作物などに出てくるのではないかと心配しています。暖冬により起こる問題としては少雪による水不足、病虫害の増加、収穫期のずれなどが挙げられます。一般的に暖かくなると植物の成長は早くなりますが、開花・出穂については逆に遅くなる場合もあります。例えば桜の開花は温暖化で全国的に年々早くなっていますが、南九州では遅くなっているという報告があります。これは、桜が「春化(しゅんか)要求性」という開花のために一定期間低温にさらされることを必要とする性質をもつためです。秋に芽が出て春から夏にかけて花が咲く越冬性植物の多くはこの性質を持っており、小麦も本来この性質をもっています。しかし、一部の小麦はこの性質をもたず、春に播いて低温を経験せずに夏に穂が出て収穫することができます。そのような小麦を春播き小麦あるいは春小麦、春化要求性をもち秋に播く小麦を秋播き小麦あるいは冬小麦といいます。春小麦の多くはロシアやカナダの北部など冬が厳しい地域で栽培されます。これはあまりにも寒い地域だと冬に小麦が凍死してしまうからです。日本では北海道に春小麦が多く、ハルヒカリ、春よ恋、など名前に春が付く品種は春小麦です。本州で栽培される小麦の多くは冬小麦ですが、気候の変化により栽培できなくなるかもしれません。コロナウイルスによる混乱の中、暖冬ですくすく育った大学の畑の小麦の苗を見て、そんな温暖化の将来への影響をふと感じました。
越冬後の小麦の苗の様子(2020年4月山形大学農場)。
地面に這いつくばった状態から、この後成長が進むと立ち上がっていく。
筆者:笹沼恒男
2020.04