今回はムギクサの話です
銀緑色に輝き風にたなびく
日本では数少ない野生ムギ類
皆さん御承知の通り、パンの原料は小麦です。パンに使用される小麦はもちろん栽培種ですが、栽培されているムギ類には他にライ麦や大麦などがあります。しかし、これらの植物も、元をたどれば自然界に生えていた野生種が栽培化され作物になったものです。ムギ類の栽培の起源地は中近東なので、中近東には栽培ムギ類の祖先野生種の他、様々な野生ムギ類が自生しています。一方で、起源地から遠く離れた日本には、野生のムギ類は少なく、特に小麦や大麦といった栽培ムギ類に近縁の野生ムギ類はほとんど生えていません。そんな中で、栽培のムギ類にごく近縁でありながら、日本で見られる数少ない野生ムギ類がムギクサです。
ムギクサは市街地や農地に見られる雑草で、栽培種の大麦と同じ属に分類されます。小麦、ライ麦、大麦はそれぞれ属が違いますので、ムギクサは野生の大麦の1種といえる植物です。ちなみに、小麦、ライ麦と同じ属の野生種は日本には生えていません。名前は、ムギのような草という意味でしょうが、その名の通り、穂の構造は大麦と同じで小さなムギの形をしています。大麦には実の付き方が違う二条大麦と六条大麦がありますが、ムギクサは二条大麦型です。この植物ももともと日本に自生していた植物ではなく明治以降に入ってきた帰化植物ですが、今では全国に分布しています。頻繁に見られるというほどではありませんが、生えているところには大群落を作っている場合があります。普通の人にとってはただの雑草なのですが、群落となったムギクサが長く伸びた芒を銀緑色に輝かせながら風にたなびく姿は、はっとするような美しさだと思うので、皆さんも機会があれば是非目をとめてみてください。
銀緑色の穂を風になびかせるムギクサ
筆者:笹沼恒男
2019.05