今回はハマニンニクの話です
砂浜に生息する麦の仲間、ハマニンニク
ハマニンニクと聞くと、小麦とは全く関係ない植物のように思えますが、れっきとした麦の仲間です。ムギ類の起源は乾燥した西アジア地域なので、日本に在来の野生ムギ類の種類は少ないですが、それでも何種類かあります。ハマニンニクはその中の一種で、海岸の砂浜に自生する植物です。ハマニンニクという名前は、茎が太くニンニクの茎に似ていることからつけられたもので、分類的にはニンニクとは全く関係ありません。別名テンキグサとも呼ばれます。麦らしい穂や太く丈夫な茎の他、厚みがありワックスがかかったような緑白色の葉も特徴です。ハマニンニクは、ムギ類には珍しく海岸の砂浜に生えるため、耐塩性や耐乾燥性があり、小麦や大麦の育種に貢献できる植物と考えられています。特に、塩に強い性質は、過剰な肥料や塩分を含む地下水の散布により土壌中の塩分濃度が高くなってしまう塩害が問題となっている昨今、作物の育種に重要な性質です。
ハマニンニクの仲間は世界に2種のみ知られており、日本やロシア極東に分布するハマニンニクの他は、カスピ海沿岸に分布するオオハマニンニクがあります。カスピ海は湖ですが塩分を含むため、オオハマニンニクも耐塩性をもつ植物です。私もカスピ海沿岸に植物調査に行った際に見ましたが、雄大なカスピ海のそばで頑丈な茎を空に向かって伸ばし大きな穂を揺らすオオハマニンニクの力強い姿に、調査の疲れも忘れ大変感激したことを覚えています。日本のハマニンニクはオオハマニンニクより少し小さいですが、それでも他のムギ類よりはずっと大きく力強い草姿をしており一見の価値はあると思います。皆様も海水浴などで砂浜に行く際には、ハマニンニクがあるかどうか是非気にしてみてください。
海岸に生えるハマニンニク(山形県飛島にて撮影)
カスピ海沿岸に生えるオオハマニンニク
筆者:笹沼恒男
2021.12