今回はジョージアのタルホ小麦の話です
優れたグルテンの遺伝子をパン小麦にもたらしたジョージアに自生する野生小麦
今年の大相撲初場所で、ジョージア(グルジア)出身の力士・栃の心が平幕優勝しました。そのニュースでジョージアがどこにあるか初めて知ったという方もいるかもしれません。伝統的に格闘技が盛んな国ですが、実は、小麦の研究でも重要な国です。これまでにジョージアでは様々な小麦が発見されてきました。特に重要なのが、タルホ小麦という野生の麦です。この麦は私たちが普段食べているパン小麦の片親になった種で、優れたグルテンの遺伝子をパン小麦にもたらしたと言われています。タルホ小麦には大きく分けて2タイプあり、1タイプはユーラシア大陸に広く、もう1タイプはカスピ海沿岸・コーカサス地方だけに分布しています。ところが、近年のDNA解析で、少数ながら第3のタイプがあり、なんとそれはジョージアにしかないということが報告されました。しかし、その第3のタイプのタルホ小麦は1980年以前に採集されたもので、現在も自生しているかは不明でした。私は2014年にジョージアで数多くの麦類を採集しましたが、その中にはタルホ小麦もありました。そこで、それらをDNA解析したところ、第3のタイプが1系統見つかり、今も第3のタイプがジョージアに自生していることが分かりました。
パン小麦の片親になったタルホ小麦は第2のタイプのものだと言われています。ということは、第3のタイプのタルホ小麦は、今のパン小麦と違うグルテンの性質を持ち合わせている可能性があります。私がジョージアで食べたパンはこれまでで一番おいしいパンだったと以前書きましたが、ジョージア固有のタルホ小麦のグルテン遺伝子をもったパン小麦を育成したら、どんなパンが作れるのか、非常に興味深いところです。
ジョージアに見られた自生のタルホ小麦の穂
筆者:笹沼恒男
2018.2