今回はアルメニアの野生小麦とアララト山の話です
アルメニアのシンボル、アララト山はノアの方舟が流れ着いた伝説の場所
前回はアルメニアのパンの話でしたが、今回はそこの野生小麦の話です。そもそも、日本であまりなじみがない国に海外調査に行ったのは、そこに貴重な野生小麦が生えているからです。私たちが食べている小麦と同じコムギ属に分類される野生種は世界に4種ありますが、アルメニアにはそのうちの3種が生えています。しかも、そのうちの2種、ウラルツ小麦とアルメニア小麦は、学名をそれぞれT・ウラルツ、T・アララティカムと言い、どちらもアルメニアの地名由来です。ウラルツはアルメニアの旧国名、アララティカムはアルメニアのシンボルとも言えるアララト山から来ています。今回の調査では、それらの現存が確認できるかが重要な課題で、アルメニア小麦は2か所で確認できましたが、ウラルツ小麦は確実にそれと言えるものは見つかりませんでした。実は2種とも絶滅危惧種に指定されており、その危惧が現実のものと実感させられました。
アルメニア小麦の学名の由来となったアララト山ですが、ノアの方舟が流れ着いた場所と言われる有名な山です。アルメニア人にとって富士山のような山ですが、実は今はアルメニアではなくトルコ領になっており、アルメニア人にとって最も残念なことの一つだそうです。とはいえ、アララトの名は国中で使われており、コニャックの有名な銘柄名もアララトです。平原からそびえ立つ山容は美しく、双峰ですが富士山に良く似ています。日本に来たアルメニア人は富士山を見て、どうしてアララト山があるのか、と驚いたそうですが、私も今回同じように感じました。アルメニアの人は親日的に感じましたが、もしかしたら2つの名山が心を通じあわせてくれるのかもしれません。
野生のアルメニア小麦(T・アララティカム)の穂
アルメニアから望むアララト山の双峰。
右の大アララトは5000m超、左の小アララトが富士山ぐらいの高さ。
筆者:笹沼恒男
2016.12