今回はアルメニアのパンの話です
研究者の憧れ、パン小麦発祥の地へ 炎天下で味わうパンは格別!
今回は、今年7月に調査に行ったアルメニアの話です。一昨年行ったジョージアの南隣に位置し、パン小麦の発祥の地とも言われるコーカサス地方の国で、小麦研究者にとっては一度は行ってみたい憧れの土地でした。かつては貴重な固有の小麦がたくさんあったはずですが、残念ながらそれらの古い小麦はもう栽培されていないということでした。しかし、パン小麦の祖先の一種である野生種のタルホ小麦はたくさん自生していました。日中は40度を超える照りつける暑さの中、ギョルザという毒蛇が潜む草原を走り回っての調査でしたが、野生ムギ類を探して汗だくになりながら、私にとってはこの上ない楽しい時間でした。
海外調査のもう一つの楽しみは、各国の食文化、特に小麦を使った食べ物を味わうことですが、アルメニアも多様なパン文化にあふれた国でした。この国の代表的なパンは、ラバッシュマトナカッシュです。ラバッシュは平たい紙のようなパンで、持ち運び安く日持ちすることから、もともとは軍隊食だったそうです。現在では、食べ物の下に食器替わりに敷いたり、食べ物を包んで食べたりと、アルメニア料理には欠かせない食材となっています。もう一つのマトナカッシュは、マトが指のことで、指で模様を付けたパンというような意味だそうで、大きなコッペパンのような膨らんだパンです。調査の途中でパン屋さんによる機会があり、そこで作る工程を見せてもらいましたが、次々とリズミカルに生地を成形し指で模様を付けていく様子は、まさに職人技でした。焼きたてを食べてみましたが、炎天下で野生ムギ類に囲まれながら味わうその味は、さすがはパン小麦発祥の地と思わせるものでした。
ラバッシュをもつ商店の女性
マトナカッシュを成形し模様をつけるパン職人(写真左)と焼きたてのマトナカッシュ
筆者:笹沼恒男
2016.11