今回はネズミムギとドクムギの話です
わたしたちの身近にある雑草も実は世界レベル!
ネズミムギとドクムギは、どちらもホソムギ属(ロリウム属)の植物です。小麦、大麦と同じイネ科イチゴツナギ亜科に属しますが、その下の分類レベルで小麦、大麦と異なるので、小麦のやや遠い親戚ぐらいにあたります。ネズミムギはイタリアン・ライグラスと呼ばれ、牧草として世界中で利用されています。日本にも導入され、現在は全国に野生化しています。あまり意識されないでしょうが、初夏の道端で本当によく見かける植物です。
一方、ドクムギは、麦畑の雑草ですが、日本ではほとんど見かけません。ドクというと恐ろしい響きですが、その名の通りドクムギを食べると家畜が中毒を起こし、時には死に至ります。ドクムギが混ざった粉で作ったパンは、人間にも有害です。ドクムギは古くから人々の身近にあったようで、新約聖書のマタイ伝に次のように登場しています。「ある人が自分の畑に良い種を蒔いた。ところが、人々の眠っている間に彼の敵が来て麦の中に毒麦を蒔いて行った。」このあと、しもべたちが主人に毒麦を抜くことを提案しますが、主人は間違って麦を抜いてしまうことを恐れ、そのまま育てて収穫の時に毒麦を先に抜くようにと言います。この話は、ドクムギが小麦に擬態しており穂が出るまでは小麦と区別がつきにくいことをよく表しています。そのような戦略でドクムギは小麦とともに世界に分布を広げたのでしょう。
実のところドクムギは植物自身に毒があるわけではなく、種子に菌が感染し、その菌の毒素により中毒が起こるのです。本人には罪がないのにドクムギという不名誉な名を与えられ気の毒な気もしますが、その代わり聖書に取り上げられ、世界中に存在を知られたのは皮肉なものです。
ネズミムギの穂。都会の道端でもよく見られる雑草の1つ。
筆者:笹沼恒男
2014.7