今回は大麦の二条と六条の話です
研究者たちをおおいに悩ませる自然界の進化の不思議
大麦は、家畜の飼料やビールの原料、麦飯などに使われる作物です。世界的にはパンにして食べる地域もありますが、小麦と違いグルテンがないので、ふっくらとしたパンにはなりません。大麦には様々な種類がありますが、分かりやすい分け方の一つが、二条と六条です。条とは列という意味で、大麦の穂は、軸の左右に3列ずつ花をつけますが、六条大麦は3列全てに実がつき左右合わせて6列、二条大麦は3列のうち中央の花にだけ実がつき左右合わせて2列に実がつくためこう呼ばれます。
古くは、野生の大麦は二条のみだと思われていましたが、1930年代に中国で野生の六条大麦が発見されたため、最初に六条大麦が東アジアで栽培化され、それが西アジアに広まって野生の二条大麦と交雑し栽培の二条大麦ができたという仮説が広まり、信じられてきました。ところが、近年のDNA分析により、中国の野生六条大麦は純粋な野生種ではなく、栽培の六条大麦と野生の二条大麦の交雑によりできた雑種であることがわかりました。これにより、大麦の起源は、西アジアで野生の二条大麦から栽培化され、突然変異で六条大麦が成立したというのが現在の定説になっています。
実のところ、栽培種によく似た野生種を発見したとき、それが栽培種の祖先なのか、栽培種の種がこぼれて野生化したものなのか、はたまた栽培種と野生種の雑種なのか、というのは私たち研究者をおおいに悩ませる問題です。このような問題を聞くたび、自然界の進化というものは研究者が思い描くような単純なものではなく、もっと複雑で、もしかしたら私たち研究者の仮説を聞いて、植物たちはひそかにほくそ笑んでいるのではないか、とすら感じるのです。
中国で見つかった野生の六条大麦の穂
筆者:笹沼恒男
2014.5