今回はツツホ小麦の話です
厄介者の雑草・ツツホ小麦が地球の食を救うかもしれない!?
今回は、ツツホ小麦のお話しをします。ツツホ小麦は分類的にはコムギ属ではなく、近縁のエギロプス属(ヤギムギ属)に属する野生の植物です。学名をエギロプス・シリンドリカといい、筒のような細長い穂をしています。中近東から中央アジアにかけて分布する野生種でしたが、環境適応性が高く、小麦栽培とともに世界各地に広まり、現在ではヨーロッパ、北米などで小麦畑の厄介な雑草となっています。日本でも、港の周りに帰化植物として見られます。ツツホ小麦には他の雑草と違う困った点があります。それは、ツツホ小麦の花粉が小麦のめしべにかかると、雑種の種子をつけてしまうことです。雑種種子は小麦粉の品質低下につながるので、生産者にとっては深刻な問題です。私は、昨年キルギスに調査に行きましたが、そこでもツツホ小麦は普通に見られ、小麦との雑種個体も見つかりました。
困った雑草のツツホ小麦ですが、それを利用しようという研究もあります。様々な環境に生息するツツホ小麦には幅広い変異があり、病気、乾燥、塩性土壌などに強いものもあります。そこで、小麦と雑種を作れることを利用し、交配により有用遺伝子を小麦に導入しようというのです。実際に、ツツホ小麦の耐病性遺伝子を小麦に導入した研究事例もあります。私はこれらの研究をさらに進め、ツツホ小麦の中に良食味の遺伝子を探し、それを小麦に導入できたら、と考えています。現在我々が食べているパン小麦も、その昔、マカロニ小麦に畑の傍に生えていたタルホ小麦がかかってできたものです。将来、地球の環境変化が進んだとき、ツツホ小麦と小麦との交配によりできた新しい小麦が私たちを救ってくれるかもしれません。
ちなみに、次回の開催地は今大会の参加者の投票によって決定されました。米国、オーストリア、中国の3カ国が立候補しましたが、最初の投票で中国が脱落し、決選投票で最有力と思われた米国が敗れオーストリアに決定しました。劇的な展開での開催決定に、おりしも五輪開催地の決定のような雰囲気で、一参加者に過ぎない私も、手に汗握る思いでした。
キルギス調査時に発見したツツホ小麦(右)と、ツツホ小麦と栽培のパン小麦との雑種
筆者:笹沼恒男
2014.3