今回はキルギス共和国の話です
中央アジア・キルギスの主食「ナン」は円盤状でモチモチとした食感のパン
今年の7月末から2週間ほど、キルギス共和国に学術調査に行ってきましたので、今回はそこで見た現地の食を紹介します。キルギスは、日本人には余りなじみがありませんが、中国の西に隣接した、中央アジアの旧ソ連の構成国の1つです。シルクロードのルート上にあり、民族的には日本人によく似た顔立ちの人が多く、非常に親近感を覚えます。現在は都市部に人口が集まっていますが、もともとは家畜とともに草原を移住する遊牧が生活の主流でした。そのため、食べ物は、羊や牛の肉料理が多いのですが、主食となっているのはパンの一種ナンです。
ナンというと、インド料理の少し細長い板状の半発酵のパンが思い浮かびますが、キルギスのナンは円盤状で、厚みもかなりある完全に発酵したパンでした。食感は日本のパンよりモチモチしていて、焼きたてを食べると非常に香ばしくおいしいものでした。都会では、スーパーやパン屋でパンを買うようですが、田舎では、まだ自分の家でパンを作るスタイルが残っていました。写真は、農家におじゃましたときのものですが、パン焼き窯の壁に生地を貼り付け、窯の中で火をたいて、その火と熱された壁の両面から温度をかけ焼くようです。
キルギスでは、ソ連時代に改良品種が普及し、伝統的な品種はほとんど消滅していましたが、この農家はアイダル・マグスというこの地域の伝統的なコムギの品種を作っていました。この品種は乾燥に強く、パンにしたとき味がいいとのことでした。伝統品種の消失は、育種学的には大きな問題なのですが、キルギスの農家がこうやって貴重な伝統品種を維持しているのを知り、品種の保全に少しだけ希望が垣間見える思いがしました。
キルギスの農家で使われていたパン焼き窯と、その農家で出されたナン。窯の中は大変熱いので、大きな手袋をしてパンを出し入れする。
筆者:笹沼恒男
2013.9