今回はツァンパの話です
高山病に苦しみながらの過酷な調査 チベット族の主食・ツァンパを食す!
植物の調査は私の仕事の一つですが、今年も8月に中国青海省に調査に行ってきました。青海省は中国西部の省で、南はチベット自治区に隣接する高地帯にあります。私が調査したのもチベット人が多く住む地域で、チベット寺院や家畜のヤクなど、中国の他の地域とはかなり違った趣を見せていました。チベット族は、世界で唯一大麦を主食とする民族です。麦といっても食べ方はパンではなく、炒った大麦の粉にヤクの乳で作ったバターを加えお茶を注ぎ練ったツァンパと呼ばれる食べ物を食べています。以前から話に聞いており、是非一度食べたいと思っていましたが、今回の調査でチベット族の方のお宅で食べる機会を得ました。悲願のツァンパでしたが、食感はパサパサしており、さほどおいしくはありませんでした。灰色っぽい見た目も含め蕎麦がきに少し似ています。
チベット人が住むのは標高三千m以上の高地で、私が滞在したのも富士山の山頂くらいかそれ以上の高地でした。農業が難しい高地で栽培できた作物が大麦で、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの必須栄養素を取れる食物がツァンパだったのでしょう。この地域の大麦は、日本で麦飯に使われる裸麦で、中国語で青?(チンコウ)と呼ばれる、東アジア固有の特殊なグループです。かつては家々で栽培していたようですが、今は物流の発達で買うことができるため、家では栽培していないということでした。もっと早く調査に来ていれば多くの品種を得られたのでしょうが、厳しい土地なのでこれまで未調査だったのも無理はありません。四千m近い標高での調査は過酷で、私も行った早々は高山病に苦しみ、実のところ食べ物を味わう余裕はありませんでした。
出来上がったツァンパ
チベット族の女性にツァンパを作ってもらう様子
お茶はヤクのバターが入ったバター茶
筆者:笹沼恒男
2015.10