今回はグルジアの小麦の話Part4です
幻のチモフェービ小麦「ザンドゥリ」を探して…
小麦の種類はどれくらいあるでしょう。品種で言えば数千以上でしょうが、実は生物学的な種としては4種しかありません。一つはもっともなじみ深いパン小麦で、世界で生産される小麦の約9割を占めます。パンだけでなく、麺、お菓子など様々な形で利用されています。次に多いのが、マカロニ小麦で、主にパスタの原料となります。残り2種の一つはヒトツブ小麦で、古代エジプトの頃には広く栽培されていましたが、現在ではほとんど作られていません。そして、最後の一つが幻の小麦であるチモフェービ小麦です。
チモフェービ小麦は、カスピ海と黒海の間のコーカサス地方でのみ栽培されていた地域固有の在来種です。殻が固く脱穀しにくく、穂が詰まった独特の形状をしています。葉に短い毛が生えていることも特徴です。もっともマイナーな小麦で情報が少なく、1960年代までは採集の記録がありますが、現在も栽培されているかは不明でした。そこで私は昨年グルジアを調査した際、チモフェービ小麦を必死で探しましたが、結局見つかりませんでした。唯一その存在に近づけたのが、ツァゲリという山間部の町の農家から、かつてこの地にはザンドゥリという固有の小麦があり、大変味が良かった、という話を聞いたときでした。聞いた特徴から、このザンドゥリこそチモフェービ小麦であったと思われます。残念ながらザンドゥリは今はもう作っておらず、種子もありませんでした。何千年もの歴史をかけこの地で作り上げられた固有の在来小麦が、わずか数年で消失してしまう様を目の当たりにし、寂しさとともに、急速な近代化にそら恐ろしさを感じました。幻の小麦ザンドゥリで作ったパンは一体どんな味だったのでしょうね。
ザンドゥリ(チモフェービ小麦)の話を聞かせてくれた農家
チモフェービ小麦の穂
筆者:笹沼恒男
2015.5